キャリア
Oct 6, 2023

未経験のキャリアチェンジ転職

変化の多い時代、このまま今の延長線上で働き続けて良いのか悩む方も多いです。プランドハプンスタンスという理論を軸に1つの考え方を紹介します。

デジタルテクノロジーの急速な進化やパンデミックなど想定外の事象や変化などにより、キャリアを含めて身の回りの環境は複雑化し、将来の予測は困難になっています。かつての日本では、決められたことを的確に実践することが正解とされ、年功序列や終身雇用があたりまえとされていました。そんな中、日本経済新聞社が発表した採用計画調査(最終集計)では、2023年度の採用計画に占める中途採用の比率は過去最高の37.6%となり、中途採用の計画人数は増加しています。この傾向は日本固有の雇用システムが崩壊し始めていることを示しています。

2019年にトヨタ自動車の豊田章男社長が「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と日本自動車工業会の会長会見で述べて以降、これまでの雇用システムである新卒一括採用年功序列による人事評価、終身雇用の崩壊が話題になっていました。このようにこれまでの雇用システムが崩れ、外部から優秀な人材が高い賃金で採用したり、業務委託人材の活用など流動化が進んでくると、経済全体の活性化につながることが期待される一方で、どのようにキャリアを築いていくべきか悩む方も多くいらっしゃいます。この記事では、キャリアチェンジを考えるヒントとして、米国のスタンフォード大学の心理学者ジョン・D・クランボルツ教授によって提唱されたキャリア理論であるプランドハプンスタンス理論(Planned Happenstance Theory)を紹介します。

プランドハプンスタンス理論とは

プランドハプンスタンス理論は、計画的偶発性理論とも呼ばれ、変化が激しく不確実性の高まる時代では、何事も計画通りに進むことばかりではないため、偶然の出来事を軽視せず、むしろ積極的に取り込み、よりよいキャリア形成に活用することが重要としている比較的新しいキャリア理論です。従来のキャリアカウンセリング理論では、あまり望ましいことではないとされていた「未決定」を望ましいことと捉えているのも特徴です。未来を予測することが難しい現代社会において、柔軟性や適応力を養うために重要な考え方とされています。

誕生した背景

クランボルツ教授は研究の過程の中で、数百人の成功者に事例調査を行っていました。成功に至る要因を確認したところ、約80%の方々が「自分の成功は、予期せぬ偶然によるもの」と回答したといいいます。また、18歳の時に理想的な職業として思い描いていた仕事をしている割合は全体の2%だったということです。そこから「個人のキャリアの多くは予想していない出来事に左右され、その偶発的なことを計画的に導くことでキャリア選択をしていくべきだ」という考え方は生まれてきました。

事例

この理論の事例として語られているわけではないですが、イメージしていただくために、1つ有名なケースを例示しましょう。米アップルのスティーブ・ジョブズが2005年スタンフォード大学のスピーチで語った言葉「Connecting the dots」です。こちらで全文と動画を確認できます。

you can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backward. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future. You have to trust in something — your gut, destiny, life, karma, whatever. This approach has never let me down, and it has made all the difference in my life.

未来を見て点と点を結ぶことはできない。だから、点と点がいつかの将来きっとつながると信じるしかない。直感でも、運命でも、人生でも、因果応報でも、何でもいい。このアプローチが私を失望させたことは一度もないし、私の人生を大きく変えた。

これはジョブズが大学で履修したカリグラフィ(美しい字を書く)の授業のエピソードを語る中で言われています。ジョブズは大学を中退すると決めた後、本当に関心が持てる授業だけを受講していました。そのうちの1つがカリグラフィでした。その時はそれが人生の役に立つとも思わず興味で受けていただけでした。しかしそこから10年後、マッキントッシュの設計をする中で思い出され、美しいフォントが打つことができるコンピューターの誕生に繋がっています。

また、クランボルツ教授自身も経験の中でプランドハプンスタンスを実感している1人です。大学2年の終わり、いよいよ専攻を決断することを迫られる中、彼はテニスに熱中するあまり決められずにいました。締め切り間際にテニスのコーチに相談すると心理学を薦められます。それをきっかけに心理学を学び始め、結果として世に名を残す世界的に有名な心理学者になったのでした。この話は彼の著書である『Luck is No Accident』(日本語版『その幸運は偶然ではないんです!』)でも語られています。

偶然の機会を生み出す5つの行動特性

プランドハプンスタンス理論では、偶然の出来事がキャリアを左右するとしつつ、ただ何か起きるのを待つのではなく、意図的に行動することで偶然の機会を生み出すことができるとしています。

|好奇心

興味関心のある分野だけでなく、新しい学びの機会を模索し、好奇心を持ち普段から視野を広げる。新しい場に足を運んだりチャレンジすることによって、チャンスが増えたりチャンスに気づきやすい状態になります。

|持続性

チャレンジには失敗や挫折も伴いますが、諦めずに納得できるまで努力する持続性。難しい局面を避けたりチャレンジを辞めてしまうと、その先のチャンスに巡り合う機会を失ってしまうこともあります。前進を続けることで新たな機会に発展するかもしれません。

|楽観性

失敗や挫折を恐れることなく、前向きに捉える楽観性。なにがあろうとも良い方向に行くはずだと信じるスタンスや前向きな思考で行動することは、物事を好転させることにつながります。そうすることで新たな機会に踏み出していくことができるでしょう。

|柔軟性

過去に立てた計画や、当初理想として描いていたことなどにこだわりすぎないこと。計画を立てることを否定しているわけではありません。そこに過度にこだわりすぎて行動や思考を狭めすぎないことが大切です。他人の意見や新たな視点なども受け入れ、臨機応変な姿勢でいることで、計画外の偶然の機会に対応できます。

|冒険心

先が見えず成功するかわからない局面において、時にはリスクを取って行動する。新たなチャレンジや不確実な選択においては失敗することもあるでしょう。ある程度のリスクはあるものと想定した上でリスクを恐れず行動することで機会を得ることができます。

まとめ

このままのキャリアで良いのか悩むことは珍しいことではありません。常に思い通りの経験が得られるわけではないかもしれませんが、新たな機会を生み出していくための1つのヒントとしてプランドハプンスタンスを紹介しました。周りで語られるあるべき姿や、自身で描く理想にこだわりすぎずに、偶然のチャンスを得られるように意識してみるとよいかもしれません。

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