イネーブルメント
Jun 5, 2024

営業やセールスイネーブルメントへのAI(人工知能)の影響

AI(人工知能)の進化によって、営業活動やセールスイネーブルメントはどのような影響を受けるでしょうか。この記事では、既に進化が進んでいるAIを活用したセールステクノロジーについて営業の実務への影響を含めて紹介します。

日々の生活の中では、朝起きたらAIアシスタントのAlexaに今日の天気を確認したり、Netflixの機械学習のレコメンデーションに心地よさを感じながら鑑賞する動画を選択するなど、身近にAIを感じているのではないでしょうか。一方、業務の中で無意識にAIを活用している営業組織は日本ではまだ多くはないと思います。

AIは、コグニティブ・コンピューティング、コンピューター・ビジョン、機械学習、ニューラルネットワーク、ディープラーニング、自然言語処理(NLP)といった複数の分野が存在します。ジェネレーティブAIの台頭により、いくつかの技術領域においては以前考えられていたよりも早く、人間レベルの性能に達成することができるだろうと評価されるようになりました。McKinsey & Companyのレポートによると下記の画像の通り様々な領域で、2017年までの予測と2023年のものと比較すると数十年前倒しで加速するという予測に変わっていることがわかります。

Source:「The economic potential of generative ai the next productivity frontier」Exhibit 6Technical capabilities, level of human performance achievable by technology

AIが人間レベルの性能に達するというと、営業の仕事がなくなるのではないかという懸念を抱く人もいるかもしれません。BtoBの購買プロセスにおいてもデジタルを活用して判断をする割合は高まっているという事実もあります。Gartnerの調査によるとBtoBの購買者の75%はデジタル完結する購買体験を望んでいるというデータもあります。一方で、それと同時にセルフサービスで製品を購買した方の43%は購入を後悔しているというデータも示されています。AIが進化したとしても、営業なくして売れない領域は存在するとともに、AIを含めたテクノロジーを活用して更に成果を上げられる人材はより求められていくと言えます。

ここからは具体的に、AIによってセールスイネーブルメントはどのような影響を受けていくのか確認していきましょう。

営業やセールスイネーブルメントはAIでどう変わる?

適切にAI技術を活用すれば、様々なセールス業務・セールスイネーブルメント業務を効率化することが可能になります。具体的に想定されるケースを紹介します。データ分析、タイミングやコンテンツ、コーチング、自動化の観点で確認してきましょう。

|分析・インサイト

- コミュニケーション

営業は毎日のように見込顧客とコミュニケーションしています。コミュニケーション領域のテクノロジーでは、電話やウェブ会議の録音、文字起こし、分析を支援します。既に日本でもAIを搭載した電話会議ツールの活用は進んできています。これらのテクノロジーでは、CRM/SFAにもデータを入力することができ、営業がより短い期間でより多くの商談を受注するために重要なインサイトを提供します。電話や会議での顧客との会話のほか、eメールの内容やタイミング、開封率・返信率からも分析を行うことができるソリューションもあります。受注率の高い営業は顧客とのミーティングの中でどれくらい発言をしどれくらい顧客から話を引き出しているのか、受注率の低い営業はどういうキーワードをキャッチできていないのか、有効なアポイントの機会を獲得できるインサイドセールスはどのようなキーワードで顧客の潜在ニーズ発掘に繋げることができているのか、新しい製品についての提案は全営業で徹底できているのか。これらのテクノロジーから得た情報をもとに、チームの営業プロセスやトレーニング資料の調整に活かしていくことが可能です。

- プロセス・フォーキャスト

AIを搭載した営業支援ツールでは、営業プロセスやフォーキャスト(受注予測・業績予測)を分析することもできます。SFAで管理されている商談の各ステージの期間や、顧客接点頻度(eメールツールや電話会議ツールなどとデータ連携されていることにより、営業の入力工数なく把握可能)、商談金額や受注予定日の変更状況などのデータからAIがインサイトを提供します。SFAの更新情報・連携情報などから、その商談が受注予定日までに受注できる可能性をスコア化して提示されたり、営業全体の商談の傾向からAIのアルゴリズムによる四半期の現実的な受注金額を予測として可視化されます。営業がSFA上でフォーキャストしているデータとの乖離を把握し、各営業ごとの営業プロセスにおける課題を明確化した上で営業マネージャやイネーブルメントはサポートが可能になります。また、目標に対して現実的にフォーキャストできるパイプラインが枯渇しているなどの状況を踏まえて、マーケティングやインサイドセールス等、別のレベニュー組織とのコラボレーションに活用することで、期中のゴール達成に向けて先回りして打ち手を計画することが可能ということです。フォーキャスト精度が上がることによって、投資計画も立てやすくなり、生産性の高いサイクルを実行できる組織へと進化できます。

|タイミングとコンテンツ

営業は初回訪問から受注に至るまでの一連の営業活動の中で、様々な資料を提示しながら顧客に新しい情報を提供したり説得・交渉を行っています。コンテンツにおいてもAIを活用したテクノロジーは発達してきています。このようなテクノロジーを活用すると、商談を受注に導くために必要なコンテンツを把握できるようになります。例えば、ある商談において特定の競合ソリューションとの比較が発生している場合、次の顧客接点の中でどのようなコンテンツがあれば有効に商談を進めることができるかを提示します。

また、個別の商談ごとのナビゲーションだけではなく、商談サイクルのどの段階で営業は顧客事例を共有するべきか、とあるテーマのウェビナーはどの段階の顧客に有効かを把握していくこともできるようになります。見込顧客の意思決定プロセスは全社一律ではもちろんないため、絶対の正解があるわけではありません。しかしながら、傾向としての活用余地は大いにあります。比較的短期間で受注に結びつく商談は、一体どのタイミングでどのコンテンツが顧客に提示されてきたか、顧客はどのコンテンツに自発的に接触してきたかを把握し、その全体傾向から適切と想定される商談ステージでのコンテンツを共通理解を持つことが可能になります。

おそらく、このテーマのブログを読者にはChatGPTを触ったことのない方はいないと思います。インターネットから情報を引っ張ってきて回答をしているため精確な情報源として業務に活用するには適切ではないことも多いでしょう。しかし、事実であることが明確な情報(自社のレベニュープロセスのデータ)をジェネレーティブAIに提供することができれば、より効果的な営業活動に進化することができます。

将来的には、まっさらのPowerPointのテンプレートから新たに提案資料を作成するという工程はなくなるかもしれません。商談のステージや状況に合わせて、どういう顧客に対してどのような競合と比較されており、どういう価値訴求で提案を行っていくのか、ジェネレーティブAIに適切な指示を送ることによって、プレゼン資料の草稿が完成するということになるでしょう。製品資料、マーケティング資料、オンボーディング、トレーニング、カスタマーサクセスによる製品活用状況の振返り資料など、あらゆる部分に適用していくことも可能です。

AIを搭載した営業支援ソリューションが普及することによって、営業は検索や準備に時間を要することが減り、そのタイミングで必要な情報に自然に容易にアクセスできるようになります。つまり、より多くの時間を本質的な活動に集中できるようになり、結果として多くの商談受注を生み出すことに繋がります。

|コーチング・トレーニング戦略

セールスイネーブルメントの業務うちの1つである営業のコーチングやトレーニングは重要でありながら、とても時間を要する仕事でもあります。トレーニングのプログラム設計やコンテンツの作成、トレーニングセッションや1on1の実施、その他テクノロジースタックの管理など含め、多くのミッションを抱えています。あまりに多忙な中で多くの営業や営業マネージャのコーチングを実施する必要がある場合、コーチングのパフォーマンスが低下してしまうケースもあるかもしれません。そこで活用できるのがバーチャルAIコーチです。

バーチャルAIコーチは、営業が典型的な営業シナリオを複数回にわたりロールプレイすることを実現します。つまり、半リアルな環境で、自分自身のピッチや応答に慣れることができ、営業がある程度自信を持って準備ができたと感じた段階で、マネージャやイネーブルメントの人間コーチが最終的なアドバイスや更にレベルアップするためのヒントを提供します。バーチャルAIコーチは、営業とリーダーシップ及びイネーブルメントにフィードバックを提供できるため、営業が特定のシナリオで苦戦している場合にはそれがフラグとして表示され、人間のコーチが対処することが可能です。

バーチャルAIコーチが営業マネージャやイネーブルメントを完全に代替することはありません。営業のコーチング活動に時間を費やす必要があることに変わりはありません。しかしAIを活用することによって、見逃していたかも知れない気づきを得たり、生産性の向上を後押しするものになるでしょう。

|効率化・自動化

ここまでAIによるセールスイネーブルメントや営業活動への影響を、3つの観点で紹介してきました。日本の多くの営業組織では、テクノロジーを導入したことによって、より営業のやるべきことが増える状況に陥っているケースも見受けられます。テクノロジーは正しく活用されれば便利である一方で、ヒトとプロセスを考慮せずに導入だけ行ってしまうと、逆に非生産的になってしまうこともあります。ここでは3つの観点を組み合わせながら、戦略的な仕事のための時間を効果的に捻出するための自動化について紹介していきます。

例えば、電話や会議での応対を分析するAIソリューションについてです。ある営業が商談において、とある機能の価値に関わる会話をうまく伝えきれなかった場合、自動的にその製品の特定の機能やそれによる顧客にとっての価値に関するトレーニングコースを特定し、定められた期間内の受講をタスクとして割り当てます。通常であれば、営業が内省する時間を時分で確保しその上でトレーニングの再受講を行おうと自発的に取り組むことが求められたり、営業マネージャやイネーブルメントとのコミュニケーションの中で、スキル習得のための必要なアクションついて計画していく必要があることが、分析結果に基づく自動化によって解決されます。

コンテンツ管理においても、AIが自動的にコンテンツを発見、整理、管理、アーカイブすることによって、人間の手作業による管理工数は圧縮されます。

アウトバウンドの営業アプローチにおいても、蓄積されたデータからより効果的なステップでアポイントに繋げていくために、電話、eメール、手紙の組み合わせと間隔でワークフローを自動生成し顧客が反応するまで発動するといったことも可能です。現在は、人間が行っている電話のアプローチも疲れ知らずのAIが違和感のない精度で顧客へ電話アプローチしてアポイントを獲得するといった未来もそう遠くはありません。

まとめ

「分析」「タイミング・コンテンツ」「コーチング」「自動化」の観点で、セールスイネーブルメントや営業活動におけるAI(人工知能)の影響について紹介しました。かつて想定したよりも早いスピードで業務にAIが活用されるようになってきます。AIを搭載したテクノロジーの進化によって、より効果的に顧客に対して価値提供が可能になり、戦略的な活動に時間を活用できるようになると理解いただけたのではないでしょうか。AIを上手に活用し人間ならではの価値発揮ができることがこれからの時代に求められる能力だと思います。また、組織としては、AIを適切に活用するために、データを適切な形式と場所に保持しているということが、今後の競合差別化において重要な要素となってくるでしょう。

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