ナインアウト株式会社
売上成長の原動力は“フォーキャストの精度”──AI時代のRevOpsが変えた営業のカルチャー

※取材時点でのお役割(2025年7月)
ナインアウト株式会社 代表取締役 石野真吾様
ナインアウト株式会社は「顧客の声を機会に変える」というミッションのもと、「Ask One」「CREATIVE SURVEY」「Fan Fan Fan」の3つのブランドを展開し、柔軟なインターフェースとリアルタイム双方向データ連携という独自の強みを活かし、業界・業種を問わず幅広いユースケースで活用されています。2025年6月には最新のAI技術をインターフェースに誰でも簡単に実装できる「AIマジック」を発表し、AI時代のヒューマンインターフェースのあり方を追求し続けています。
事業拡大に伴い営業組織の意思決定スピードと精度を高める必要性に直面していた同社が本格的に取り組んだのが、RevOpsを基盤としたフォーキャストマネジメントの構築です。導入からわずか数ヶ月で、売上への明確なインパクトだけでなく、営業カルチャーそのものが大きく変わったといいます。この記事では、エンハンプとともに取り組んだRevOps導入とフォーキャスト変革の舞台裏、そして組織にもたらした成果について、ナインアウト代表取締役石野真吾氏のインタビューを紹介します。

「AI時代の営業再定義」──変革への決意とその背景
新章の幕開け:クリエイティブサーベイから「ナインアウト」へ
約2年前から「Ask One」や「Fan Fan Fan」といった新ブランドを立ち上げ、事業の拡大を図ってきました。ありがたいことに多くのパートナー・顧客との出会いに恵まれ、想像を超えるスピードで事業は拡大。提供するサービスは、従来の「CREATIVE SURVEY」という枠を大きく超えるものへと進化を遂げていました。
そして私たちは、AI時代の到来を見据え、プロダクトの本質を再定義。強みである「Interface」「Integration」「AI」の3つの要素と、N個のデータの入出力をつなぐという意味を込め、「N in Out」を意味する「ナインアウト」へと社名を変更しました。より大きな挑戦に向けて、新たな成長フェーズに突入しました。
変革の起点は、“サーベイの会社”という思い込みを壊すこと
2年前の私たちは、あらゆる面で課題を抱えていました。なかでも「営業力の強化」は、最重要かつ急務のテーマでした。
自社サービスの活用状況を丁寧に見ていくと、もはや「サーベイ」という言葉からは想像もできないような様々なユースケースに対応し、顧客の本質的な課題解決に貢献していることが明らかになりました。しかし実際のマーケティングや営業活動では、「サーベイの会社」というカテゴリーに縛られ、プロダクトの進化や本質的な価値を正しく伝えられていなかったのです。
この認識のギャップが、営業活動の大きなハードルとなっていました。優れたプロダクトを持ちながらも、それを市場に正しく届けることができていないという構造的な問題に気づいたことが、営業変革の第一歩となりました。
本当の課題に気づいた瞬間|価値伝達の壁
最初にリリースした「Ask One」は、先行ユーザーから高評価を得ていたにもかかわらず、営業組織を通じて本格展開しようとすると、期待とは裏腹に売れませんでした。
その要因は、営業する以前の問題でした。むしろ、組織として「何をどのように価値として伝えるのか」という視点と、それを支える体制・文化が決定的に欠けていたのです。この土台がなければ、いくら良いプロダクトがあっても、成長は見込めない。その現実を突きつけられました。
さらに、「Ask One」は汎用性の高いホリゾンタルプロダクトであるがゆえに、本質的な価値の核を明確に定義し、深く掘り下げる必要があることにも気づかされました。そこではじめて、「私たちだから提供できる価値とは何か」を徹底的に言語化することの重要性が浮かび上がってきたのです。
この価値を確実に顧客に届けるには、単なる営業力ではなく、“顧客価値の創出に執着できる営業組織”の構築が不可欠だと確信しました。
AI時代の変化に飲み込まれる前に営業の土台を作る
AI、とりわけ「Agentic AI」が本格化するこれからの時代において、私たちは改めて痛感させられるはずです。 人間がいかに判断基準を言語化できていないか、そして、どれだけ多くの業務が「なんとなく」に支えられているか、という現実に。
RevOpsは、このブラックボックス化したオペレーションにメスを入れるアプローチです。プロセスを言語化し、ルール化し、データとして蓄積する。これこそが、AIを組織に根付かせ、活用するための前提条件になってくると考えています。
属人的なオペレーションに依存し続ける企業と、再現性あるモデルで動く企業とでは、今後成長格差が生まれることは間違いありません。この傾向は、欧米企業と日本企業のAI活用度の差にも明確に表れています。特にグローバル企業では、「AIで代替できない業務であると証明できなければ採用しない」とまで言われるということも耳にしたことがあります。何をやるか、何をやらないかを、精度高くかつアグレッシブに判断できるからこそ、企業は加速度的に成長できるのです。RevOpsはもはや「やるかどうか」ではなく、「いかに早く、いかに徹底的にやるか」のフェーズに入っていると思います。変革のタイミングを逃せば、その差は埋めようのないものになるかもしれません。
「予測精度」が組織を変える──フォーキャストマネジメントの全貌
「今じゃない」は通用しない、成長期こそ求められるオペレーションモデル
RevOpsの中でも、営業において最も重要なのがフォーキャストマネジメントだと私たちは考えています。持続的に成長していくためには、営業状況を早期に把握し、着地見込みの精度を高め、ボトルネックをいち早く特定して打ち手を講じる必要があります。こうした“先手を打てる体制”こそが、成長の土台になると実感してきました。
この考えに至った背景には、私がマルケトに在籍していた頃の経験があります。当時、組織のなかにリズムを生み出し、ボトルネックを早期に発見し、打ち手を明確にする重要性を痛感しました。この仕組みがなければ、持続的かつ再現性ある成長は実現できないという想いは、今も変わっていません。そして、その仕組みをナインアウトにも根づかせたいと考えてきました。
だからこそ、私たちは早い段階から「仕組み化」と「標準化」にこだわってきました。なかには「急成長中の今は、そうした整備をするフェーズではない」といった意見もありますが、むしろスケール直前の今だからこそ、成長を加速させるためにRevOpsの基盤が不可欠だと捉えています。
この確信には理由があります。約8年前、私がSansanに在籍していた頃、MAやSFAを導入してキャンペーンマネジメントの仕組みを構築した経験があります。そのとき実感したのは、急成長のただ中にあるからこそ、データを活用して「どこに投資すべきか」「何をやめるべきか」を迅速かつ大胆に判断する力が求められるということでした。
営業現場でも同じです。フォーキャストマネジメントが機能していなければ、「とにかく頑張ろう」といった精神論に偏ったり、すべての案件や施策を手作業でチェックする非効率な状況に陥りがちです。その結果、膨大な工数やコストが発生します。
一方で、仕組みが整っていれば、少人数でも高品質な施策を効率的に回せるようになります。どの案件に注力すべきか、どの営業担当者がどのフェーズで課題を抱えているのかも、明確に把握できるようになります。
私たちは、フォーキャストマネジメントこそが「営業組織の健全性を可視化し、リスクを早期に発見するための土台」だと考えています。そしてこの仕組みは、早く着手すればするほど、その効果が大きくなると確信しています。

着実な進化|フォーキャスト精度向上への道のり
適切なビジネス要件なくテクノロジーを導入しただけでは、予測精度は上がりません。私たちは、理想の状態から逆算しながらも、一歩一歩の積み重ねを大切にしてきました。仕組みは一朝一夕で定着するものではないと、最初から腹をくくっていました。
精度を上げるために欠かせなかったのは、経営層・マネジメント層・営業の間で対話を重ねることです。言葉の定義や判断の基準が揃い、共通の視点が社内に根づいたとき、初めて全員が同じ温度感でフォーキャストに向き合えるようになりました。
このプロセスを地道に繰り返した結果、まだまだ改善できる点はありますが、営業組織は半年、1年前と比べても見違えるように変化し、2年前と比べれば想像もできないほどの進化を遂げたと実感しています。
専門家との共創がもたらした営業力の変化
成果を出すには、まず「どうあるべきか」という理想を描き、それを深く理解することが欠かせません。この点で、エンハンプとの協業は非常に大きな意味を持ちました。
一般的に、営業力強化というと、ソリューションセールスへの移行や「コト売り」への転換、Salesforceの整備といった個別施策に終止しがちですが、それだけでは変革は定着しません。エンハンプとの取り組みは、「構想段階での理想像の明確化」から始まり、それを支える業務設計、運用定着までを一気通貫で支援してくれるものでした。この「構想→設計→定着」の一貫した支援こそが、再現性ある営業変革の要だと実感しています。
エンハンプには、フォーキャストマネジメントやグローバル基準の標準化に対する深い知見があり、その支援は一段レベルの違うものでした。
私自身、マルケトに入社し、同じく当時マルケトに在籍していたエンハンプ代表の川上さんとの初回商談に同席した際、ユースケースや機能面の話以上に、「価値をどう伝えるか」の視点に強く心を打たれました。感覚を構造に落とし込む言語化の精度、再現性のある営業設計、そして組織にリズムを生み出し文化として定着させる力。それらを知っていたからこそ、協業の決断に迷いはありませんでした。
人・プロセス・テクノロジーの融合で変わった文化
エンハンプの支援は、単なるツール導入や業務設計にとどまりません。マインドセットの醸成や、企業としての価値観の浸透といった“組織の内側”にまで深く踏み込んでくれる点が、私たちにとって非常に大きな意味を持っています。
営業力を本質的に高めるには、テクノロジーとプロセス、そして人・組織。この三つが一体となって理想を描き、そこから逆算して着実に進めていくことが必要です。どれか一つが欠けても、持続的な成果にはつながりません。
どれだけ優れたテクノロジーや人材がそろっていても、「標準化されたプロセス設計」や「再現可能な営業モデル」がなければ、継続的な成果にはつながりません。このことを、私たちは現場でリアルに体感しています。エンハンプは、この“プロセス思考”をベースに、感覚に頼らない仕組み作りを支援してくれる存在です。
現場の変化と再現性ある成果創出
今の営業組織は、もはや“別の会社”と呼んでもいいくらい、大きな変化を遂げました。最も大きな成果はフォーキャスト精度の劇的な向上です。各営業担当だけでなく、マネージャー層にとっても現状の把握が圧倒的にクリアになりました。それにより、一人ひとりの生産性も飛躍的に高まっていると感じています。
営業メンバー自身が自分の状況を深く理解した状態で、日々の業務に向き合える環境が構築されたこと。それが、この変革の原動力になっています。
その象徴が、半期に一度の「チャンピオン制度」です。これは最も価値提供をした営業を表彰する制度ですが、毎回違うメンバーが選ばれています。特定の人だけが成果を出すのではなく、組織全体で実力が底上げされている証拠だと捉えています。
とくに大きく変わったのは、「営業として何をすべきか」という意識そのものです。以前は「Salesforceへの入力が面倒」といった声もありましたが、今ではそのデータをもとに日々のフィードバックや連携が行われるようになり、入力の意義を営業部全体が理解しています。
その結果、以前は担当者に直接聞かないと分からなかった「今月の見込み案件」が、今ではXactly*を見れば一目で状況が把握できます。どの案件に課題があり、どのフェーズで停滞しているのかも明確に見えるようになりました。
*Xactly:Xactly(エグザクトリー)は、売上予測、インセンティブ報酬管理、営業組織設計の一連のプロセスを支えるクラウドサービスを提供している米国本社のSaaS企業。ここではXactly Forecast(売上予測管理のためのソリューション)を指す。
データが変えた経営と営業の関係──“レベニューケイデンス”の確立へ
営業の変化が、経営の判断スピードを変えた
今回の変革は、営業だけでなく、経営層にとっても大きなインパクトをもたらしました。フォーキャストマネジメントやパイプラインマネジメント、そして組織的なデータ管理の仕組みが整ったことで、ボトルネックをこれまでになく早期に発見できるようになったのです。
私たちのセールスサイクルは比較的短いため、この特性を活かして、営業の状況をマーケティング施策に即座に反映したり、精度の高いフォーキャストに基づいて経営判断を前倒しで行えるようになりました。たとえば、予算のアロケーションも、従来以上に戦略性を持って調整できるようになっています。
とくに大きな変化は、こうした意思決定がトップダウンで行われるのではなく、レベニュープロセスに関わる各マネージャーが、自分たちの前後工程を見据えて自律的に調整できるようになったことです。
これは組織として極めて健全な状態であり、持続的な成長を実現するための大きな強みになっています。

次なる進化|部門を超えた連携とレベニューケイデンスの確立
私たちは現状に満足することなく、次のフェーズを見据えています。今後は、フォーキャストデータを営業だけでなく、マーケティングやカスタマーサクセスにも展開し、各部門がより能動的に動ける体制をつくっていく必要があります。
現時点では、当月・翌月・四半期単位でのフォーキャストを起点に運用していますが、将来的には”部門横断の“レベニューケイデンス”を確立したいと考えています。具体的には、週次でマネージャーと営業、マネージャーと経営層が連携し、毎回ダッシュボードを作り直すのではなく、Xactly上で常に最新の情報を経営に関わる全マネジメント層が即時に把握できる状態を目指しています。
もちろん、理想への道のりは一直線ではありません。二歩進んで一歩下がるような試行錯誤の連続です。それでも、着実に一歩ずつ前進し、振り返れば確実に進化している──そんな「緩やかながらも確かなステップ」を積み重ねながら、私たちは全社一丸となって未来を切り拓いていきます。
単なるパートナーではなく「伴走するチーム」エンハンプ
エンハンプをパートナーに選んだ最大の理由は、彼らが持つ体系化された“実践知”にあります。フォーキャストマネジメントはもちろん、RevOps全体に関するグローバルなトレンドや、マルケトをはじめとする外資・日系企業での豊富な経験に裏打ちされたノウハウは、私たちの事業を確実に前進させるものでした。
協業を進める中で感じたのは、エンハンプは単なる外部ベンダーではないということ。同じ目線で課題に向き合い、常に寄り添ってくれる。その姿勢には“まるで同じチームで働いているかのような伴走感”がありました。だからこそ、私たち社内でも自然と信頼が生まれ、全員が安心してプロジェクトを推進することができました。
特に代表の川上さんは、多様なバックグラウンドを持つ弊社の営業メンバーからも厚い信頼を得ています。納得感を持って変革に取り組むことができ、組織の中に確かな「腹落ち」が生まれていきました。
彼女の強みは、よくある“カリスマ型のトップセールス”とは異なり、感覚的なノウハウを再現可能なプロセスに落とし込み、属人性を排した“仕組み”として言語化できる点です。その翻訳力は、AI時代において極めて重要な「意思決定の前提となる判断基準の構造化」に直結しており、単なる営業支援を超えた“経営基盤づくり”としても大きな価値を発揮しています。
RevOpsの本質は、テクノロジー導入や業務改善にとどまらず、「再現性ある意思決定」と「組織が自走する仕組み」をつくることにあります。エンハンプとの共創はまさにその本質を体現するものであり、AI時代に求められる“組織のOS”をともに構築していくパートナーだと、私たちは感じています。
「正解探し」からの脱却:自社に最適な理想像の追求
私たちはつい「正解」を求めがちですが、本当に目指すべきなのは、自社にとって最適な“理想像”を見出し、そこに向かって進むことだと考えています。たしかに、より「正解に近い形」は存在しますが、その答えは会社ごとに異なります。汎用的な成功法則よりも、自社の文脈に合った理想を突き詰めることにこそ、本質的な価値があるはずです。
過去の私たちも、正解を探すあまり情報収集に偏り、「それはもう取り入れている」「自分たちでもできるはず」と、思考停止に陥っていた時期がありました。なぜすぐに行動に移せなかったのか。それは、「どうあるべきか」という理想像や、他社事例・グローバルスタンダードを表面的にしか理解していなかったからだと思います。
実際に取り組み始めてみて初めて、自分たちが見落としていた重要な視点や、進むべき順序・ステップ論が存在することに気づかされました。よくある「こういうプロダクトだと思っていたけれど、実際は違った」というギャップも、まさにその象徴です。
私たちは今、「できていると思い込むことこそ最大のリスク」だと痛感しています。フォーキャストマネジメントやRevOpsにおいて一定の進化は遂げましたが、まだまだ改善の余地はある。そう信じて、これからも理想に向けてアップデートを重ねていきます。

“オペレーションモデルの力”でAI時代を切り拓く──次なる挑戦へ
私たちはAIインターフェースの提供を開始し、既にさまざまな企業での活用が進んでいます。この新しい市場を切り拓くことで、「働く誰もがAIをはじめとした最新技術を活用し、顧客体験と労働生産性を向上できる世界」を実現したいと考えています。そして、日本国内にとどまらず、グローバルにも展開していく計画です。
現在、マーケティング領域ではキャンペーンマネジメント、営業ではフォーキャストマネジメント、カスタマーサクセスでは既存顧客のマネジメントといった体制が、部門単位で着実に整いつつあります。
しかし、私たちはこれに満足していません。事業の急成長をさらに加速させ、部門を横断した仕組みづくり、そして再現性の高い成長モデルの構築に向けて、次のステップに踏み出しています。